お茶飲みしましょ!まずは一息。更新もまったりです。


by ittouan

恋慕渇仰

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俳優緒方拳さんの突然の悲報は
ここ数日私の胸に言い知れぬ寂しさを落としている。
大好きな俳優さんだった。
私にとって、ちょっと特別な人だった。

若い頃は個性的なクセのある役が多かったが、
晩年は穏やかでチャーミングな人間味のある役が印象に残る。
緒方さんのことを求道者とか修行僧のような人だと、誰かが語っていたが、
もう少し、その生き様を私達に見せて欲しかった。

15年ほど前に、たまたま緒方さんの著書『恋慕渇仰』を買い求めたところ、
そこに書かれている文章、彼の生み出す書や焼き物に、あっという間に魅了された。
特に書に関しては、生まれて初めて、心に文字が意味を持って迫ってきた気がした。
書というものに少なからず興味を持つようになったのは、
緒方拳さんのおかげと勝手に思っている。

そして緒方さんを想うとき、必ず胸に去来する面影がある。
緒方さんは亡くなった私の父に、似ていたのだ。
特に30~40代はじめのころの、ちょっとした表情がそっくりだった。
父は49歳という若さでこの世を去った。
生きていたら今年72歳、緒方さんより1歳上だ。
どんな風に年をとっていたのだろう。
父の晩年は残念ながら幸せなものとは言いがたいものだったが、
あるいは長い年月を生きていたなら
緒方さんのように格好良くとまではいかなくても、
それなりに幸せな老人になってくれていたのではないだろうか。

緒方さんの訃報を聞いて、この書がすぐに浮かんだ。
私も何人もの人の骨を拾ってきて、思う。
神さまはなぜ、骨だけが残るように作ったのだろう。
緒方さんの骨、きっとこの書みたいに堂々と立派だったろうな。

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骨を拾う時にいつも、なんてつまらない入れ物に骨が入ってしまうのだろう、
誰もが同じ白い入れ物に、と思っていた。

やきものの土を手にした時、ごくごく自然に出来上がってしまったのが壷だった。
骨壷にしてはでかい。
自分の作った壷に、野の花や、渋柿の枝をほうりこむ。
字を書く。よくぞ男に生まれけり、と撫でさすっている。
あまり女の人の作る壷はみかけない。何故かな。

死ぬということは残った人の中に生きるということだ。
自分の中に、逝った人々を生かし続けるということだ。

        『恋慕渇仰』  緒方拳  より




奇しくも今日10月10日は父の24回目の命日です。
どこか似た面影を持つ二人の人を偲び、
緒方さんのご冥福を心よりお祈りいたします。
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by ittouan | 2008-10-10 16:30 | つぶやき